【レビュー№1795】証言 零戦 大空で戦った最後のサムライたち
証言 零戦 大空で戦った最後のサムライたち
評価★★★★
本書の題名は言うまでもなくあの坂井三郎氏の名著「大空のサムライ」に因るのだろうが、我々が知らないだけで現実には大空のサムライ(太平洋戦争中の零戦搭乗員)は山のようにいらっしゃるわけで、著者は戦後50年の1995年頃から、生き残られた零戦搭乗員の取材を細々と続けていたのだという。もはやほとんどの方が鬼籍に入られている(本書で紹介されている搭乗員の方も現時点で存命の方は一名のみのようである)ことを考えれば、著者の記録は戦史上においても貴重なものと言えるだろう(例えば、真珠湾攻撃に参加した攻撃隊員によれば、第一次攻撃の際に既に激しい対空砲火に見舞われており、本当に奇襲であったかは疑わしいとの見解を持っている者が多かったという)。それにしても悲惨極まりないのは零戦搭乗員の実に8割が戦死したという事実だ。本書に紹介されている搭乗員の方も、みな子供の頃から飛行機に憧れて、何十倍もの厳しい競争を勝ち抜いて戦闘機乗りとなられたと書いておられるので、そんな夢を抱いた若者がかくも厳しい運命に翻弄されていたというのは読んでいてつらくなる。現に紹介されている搭乗員の方のほとんど全員が、いずれかの期間中において心あるいは体に異常をきたして、あるものは途中で、あるものは最後に戦線離脱を余儀なくされているのだ(また、それがために生き延びたというケースも多々あったようで、ご本人たちの心理はいかばかりであったろうかと思う。)。
先ごろ、テニスの大坂なおみ選手が、長きにわたるうつ病との闘病について告白したと聞いた。真剣勝負で死にものぐるいの戦いをしていれば、誰しもなにがしかの異常をきたすのは当然なのだ。それははずかしいことでもなんでもない。人間であれば当然のことなのだ。そして、人間である我々の誰しもがそうなのだ。本書は、そんなことを再確認させてくれた。