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9月 19, 2020の投稿を表示しています

【レビュー№1746】日本企業の勝算

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日本企業の勝算   評価★★★ 思いもせぬ政権交代があり 菅首相が就任した。報道などによると、氏の経済ブレーンの一人として著者アトキンソンの名が上がっている 。新政権発足と前後して「 地銀問題 」がクローズアップされるなど、何やら風向きが変わりそうに感じて、あわてて著者の近著を手にとった。不思議なことに著名な著者の近著にしては図書館での順番待ちもなくすぐ借りられたのだが、その理由はすぐわかる。わかりにくいのだ。おそらく著者は内外の膨大なレポート(その中心は中小企業白書であるが)を精査したようなのだが、それを読んで感じた著者自身の感情の高まりがあまりにも激しかったのか、わかりやすい日本語の文章になってない(と、英国生まれの彼に言うのも酷な話ではあるが)。だから、あまり人気になってなかったのだろう。 本書に書かれていることはただひとつ、日本には中小企業が多すぎる、それが経済低迷の唯一無二の理由であり、そこを改善しなければ日本経済に未来は無い、ということだ。そのことを様々なデータから繰り返し繰り返し強調されるので、読んでいると辟易とする。 まさか政権がいきなり中小企業いじめをするとは思えないので、その偽装のために地銀いじめをを始めたのだとすれば、それは高度な作戦と言えるだろうが、果たして真相はどうであろうか。

【レビュー№1745】安政五年、江戸パンデミック。

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安政五年、江戸パンデミック。 評価★★★★ 著者である立川談慶師匠は史上初の塾員(慶應義塾大学卒業生を指すテクニカルターム)真打ち落語家であり、評者の同窓同級生にして同じゼミに所属していたという縁がある。本書にもわずかにそのゼミ(農業経済学という経済学部としては異色な分野)の指導教授とのやり取りが書かれている。それを読んでいて、またまた世の中の縁というものを強く感じた。著者の卒論テーマが、長野(著者の故郷)の百姓一揆にかかるものであり、本書の内容と通じるものがあるからだ。いやはや、人生何が幸いするかわからない。30数年前に学んだことが活かされる時が、突然やってくるのだから。 人類の歴史は感染症との戦いだったことは間違いあるまい。まして、江戸時代の江戸は世界最大の人口を抱えたのだから、現代医療も無い時代、それはそれは生きていくことすら大変だったろう。著者も学生時代に講義を取っていたはずの 歴史人口学の権威でありスペイン風邪の歴史研究にも詳しい故速水融先生 曰く、「江戸は人口の蟻地獄」だったのだから。 そんなとてつもない江戸の街を、意外にも江戸っ子たちは風に吹かれる様に軽やかに駆け抜けていた風情を描いたのが本書だ。 当時の感染症はコレラ、今はコロナとなぜか病名も似ているのも何かの因果か。 時に数万人もの死者を出していた感染症の中であっても、意外にも江戸(時代)の人々がおおらかに生きていたのは興味深い。それに対して、いまわれわれが、ステイホームや在宅勤務と称して家に閉じこもり、わずかに出かける時もおびえながらマスクをして歩いているのはなぜなのだろう(なお、評者は識者の見解を信用し、外出時戸外を歩いている時はマスクをしていない)。 巻末に年表が記載されているが、歴史的な事件、事象と、感染症の発症時とが合致していることも新しい発見だった。歴史を動かすのは生きるか死ぬかの決断を迫られた時なのだろう。