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8月 31, 2017の投稿を表示しています

【レビューNo.1575】蘇る翼 F-2B

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評価 ★★★ ヒゲの隊長こと佐藤外務副大臣が少し前に本書の存在を Facebook で投稿していたが、本書は東日本大震災で津波の直撃を受けた航空自衛隊松島基地とそこに所属していた F-2 戦闘機隊の再建の物語である。 世界でも類例を見ないという津波で海水(というより汚泥塩水)を被った戦闘機を復元する作業。電子機器の塊である現代の最新鋭戦闘機をかような状況から復元するのは、当初は到底不可能と思われたが、現場の基地隊員、製造メーカー、エンジンメーカー、そして本書ではあまり触れられてないが佐藤副大臣(当時は野党の一議員に過ぎない)の政治家としての奮闘もあって、前例のないプロジェクトがスタート。その道のりは、まさに日本のお家芸である現場力の発揮そのものであることが、詳らかにされている。 タレブの近著の反脆弱性に「現場でのティンカーリング(いじくり回し)が大事なのであって、理論や理屈は大事ではない」という話が出てくるが、まさにそれを彷彿とさせる事例がここにある。 もしも、このプロジェクトが首尾よく完遂されてなかったら、今の緊迫する日本の安全保障上に大きな穴が空いていたであろうと思われるだけに、携わった全ての関係者に素直に敬意を表したいと思う。

【レビューNo.1574】幸福の「資本」論

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評価 ★★★ 例によって橘玲氏ワールドの書。 私の様に初期からの著者の読者にとって、著者の言動はある種宗教みたいなものになっているので、本来的には本書を私がレビューするのはもはや適切では無いのかも知れない。 そう思いつつも書くが、何時もながら著者の発想には感心させられる。今回は人を金融資本(要は貯金)、人的資本(要は給料をいくら稼げるか)、社会資本(友達の多さなど)の 3 つの側面からとらえようというトライアルな訳だが、この区分けで行くと、いわゆるマイルドヤンキーの人たちがお金(金融資本)が乏しくても、友達という社会資本と最低限かも知れないが生活には困らない程度には稼ぐことができる人的資本によって、幸せであると著者は本書で説く。 逆に、お金持ち(金融資本が豊富)であっても、人的資本が無く(働くことをやめたないし老齢より働くことができない)、社会資本も乏しい(お金持ちはそれが故に友達は少なくなるであろうとの著者の見立て)と容易に不幸になると言う。確かにそういう人は、評者の周りに多く存在している。 著者の過去の著書に比べると、お金(金融資本)について言及しているところが極めて少ないのが、本書の特徴だろう。その理由として著者は「マイナス金利によって、金融資本を増やすことが極めて困難になり、逆に給料など定期的な収入のあること(人的資本)が極めて重要な世の中に変わったのだ。」と説く。 わかりやすく書けば、マイナス金利の時代では、年収 3 百万円の若者の人的資本価値は、著者の見立てだと約 3 億円に達すると言うのだ。 年金問題とて、元は長すぎる老後問題なので、少額であっても定期的な収入を得る人的資本をキープすることが極めて重要だと言う。 という、普通の人には理解しづらい理屈の書だが、読んでおいて損は無いとだけは言っておこう。

【レビューNo.1573】日米同盟のリアリズム

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評価 ★★★★ 長年軍事評論家として活躍してこられた著者は、昨今は Facebook などの SNS でもお馴染みの存在であり、その安定感ある投稿内容はやはり余人をもって代え難いものを感じることがある。 本書冒頭で著者は、経済合理性からして日米同盟は日本からも米側らからもその離脱は著しい損失(書中には具体的な金額が記載されているがここでは割愛)を余儀なくされ、中でも米国は日米同盟解消となれば、世界の超大国の座を滑り落ちることになると言う。 そのことを理解しない上で、対北朝鮮、対中国(尖閣問題など)を論じても仕方がないと言うことなのだろう。昨今の北朝鮮危機とも思える事態に対して、著者の Facebook などでの投稿内容はやや楽観的では?も思ったこともあったが、本書を読んでようやく理解ができた気がする。 「中国の空母が使い物にならない」という話は元 NHK の日高氏の本にもよく出てくるネタであったが、著者の解説を聞くとその理由が明快にわかる。 現時点の東アジア情勢理解のために、読んで損は無い一冊と思う。