【レビュー№1745】安政五年、江戸パンデミック。




安政五年、江戸パンデミック。

評価★★★★

著者である立川談慶師匠は史上初の塾員(慶應義塾大学卒業生を指すテクニカルターム)真打ち落語家であり、評者の同窓同級生にして同じゼミに所属していたという縁がある。本書にもわずかにそのゼミ(農業経済学という経済学部としては異色な分野)の指導教授とのやり取りが書かれている。それを読んでいて、またまた世の中の縁というものを強く感じた。著者の卒論テーマが、長野(著者の故郷)の百姓一揆にかかるものであり、本書の内容と通じるものがあるからだ。いやはや、人生何が幸いするかわからない。30数年前に学んだことが活かされる時が、突然やってくるのだから。

人類の歴史は感染症との戦いだったことは間違いあるまい。まして、江戸時代の江戸は世界最大の人口を抱えたのだから、現代医療も無い時代、それはそれは生きていくことすら大変だったろう。著者も学生時代に講義を取っていたはずの歴史人口学の権威でありスペイン風邪の歴史研究にも詳しい故速水融先生曰く、「江戸は人口の蟻地獄」だったのだから。

そんなとてつもない江戸の街を、意外にも江戸っ子たちは風に吹かれる様に軽やかに駆け抜けていた風情を描いたのが本書だ。

当時の感染症はコレラ、今はコロナとなぜか病名も似ているのも何かの因果か。

時に数万人もの死者を出していた感染症の中であっても、意外にも江戸(時代)の人々がおおらかに生きていたのは興味深い。それに対して、いまわれわれが、ステイホームや在宅勤務と称して家に閉じこもり、わずかに出かける時もおびえながらマスクをして歩いているのはなぜなのだろう(なお、評者は識者の見解を信用し、外出時戸外を歩いている時はマスクをしていない)。

巻末に年表が記載されているが、歴史的な事件、事象と、感染症の発症時とが合致していることも新しい発見だった。歴史を動かすのは生きるか死ぬかの決断を迫られた時なのだろう。

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