【レビューNo.1636】専業主婦は2億円損をする
野口悠紀雄先生と橘玲氏は、勝手ながら個人的な人生の師匠との位置付けだ。ただ、最近の橘玲氏の作品は今ひとつ気持ちが空回りしている感が無いでも無かったが、本作は久しぶりに橘玲らしさが素直に表出した作品と評価したい。
その理由は本書のあとがきにある(あとがきを読んでから読書を開始することをお薦めしたい)。これまでにあまりなかったことだが、本書のあとがきで著者は著者のプライベートについてかなり詳細に語っている(内容についてここで触れるのはつまらないので、明かさないでおこう)。その著者の体験が、本書の内容に説得力を与えているのだ。
そのあとがきで著者が触れている通り、本書は著者の既刊『幸福の「資本」論』をジェンダー問題の分野で焼き直したものだ。タレブを例に上げれば、タレブ自身は近著の「反脆弱性」が一般的な事項を書いている作品であり、ベストセラーの「ブラックスワン」は金融危機に的を絞った作品だと定義している(そう「反脆弱性」に書いている)。では、「反脆弱性」と「ブラックスワン」のどちらが読み物として面白いか?というとそれは難しい質問だ。行動経済学が教える通り、人間は「物語(tale)」で理解する(アカロフなど)。物語として読者に読ませるのは今回の場合、本書「専業主婦は2億円損をする」なのだろうと思う。それは何故かと言うと、先にも書いた通り著者の歩んできた真実の物語が、本書には裏打ちされているからだろう。