【レビューNo.1611】カティア・ブニアティシヴィリ ピアノ・リサイタル
ピアノ界にに突如現れた超新星のような輝きとギリシャ彫刻のような美しさを誇る、カティア・ブニアテイシヴイリのサントリーホールでのリサイタルに出かけてきた。
冒頭ベートーベンの「熱情」だったのだが、驚いたのはミスタッチが多いこと。プロのピアニストのコンサートでここまでミスタッチする人は、評者の約30年のクラシック音楽鑑賞歴で記憶が無い。彼女がベートーベンをあたかもリストの超絶技巧曲かと聞き違うかのように、超高速で演奏するためなのではあるが。その様子はあたかもモナコグランプリを走るF1カーが、次々にウォールにヒットしてタイヤはおろか最後はシャーシーもなくなってしまい、運転手を保護しているいわゆる「バスタブ」だけになってでも、なんとかゴールを目指すとでも言う危ういもの。
「熱情」を終えて次の曲に入る前に、かなり念入りに椅子の高さを調整していた。その様子は、グレン・グールドがピアノの椅子の高さの調整だけで30分近い時間をかけたとの「伝説」を彷仏とさせた。F1マシンの様なピアノ演奏なのだから。イスの高さのコンマ数センチかの違いでも、大きな違いが出るのだろう。マクラーレン・ホンダのマシンがウイングのコンマ1ミリの違いで別物のような動きとなっていたのと同じで。
二曲目以降は多少は安定感を取り戻したが、それでもミスタッチは散見された。ようやく終盤の自家薬籠中であろうリストの曲群となって、高速と正確さとがバランスが取れてきた。
アンコール(もたくさん演奏してくれたが)のドビュッシーの月の光が珠玉の出来だったことを思えば、そんなに急いでどこへ行く必要があるのだろうか?若さと今後の成長に期待して★3つとしたい。本来なら★2つなのかも知れない。