【レビューNo.1533】私記キスカ撤退
評価★★★
あれほど映画「太平洋奇跡の作戦キスカ」を愛する評者であるにも関わらず、この阿川弘之の短いが渾身の検証の作の存在をつい最近知った。今はKindleでしか入手は困難のようで、図書館から取り寄せた一冊は、紙が赤茶けて変色しており1988年6月第1刷と記してあった。偶然だが、評者が社会人一年生の頃に世に出た文庫だったようだ(書中の各作品の初出はそれ以前ではあるけれども)。驚くことに作者は実際にアッツ島キスカ島への訪問を計画するが、無人島であるキスカ島へは行く術が無く当時は週に2回飛んでいたという民間機でアッツ島へ渡航(ちなみにWikipediaによれば現在はアッツ島は渡航が厳しく制限されているようであり、そのこと自体が貴重なことになってしまったようである)。その往路で空からキスカ島を見ることができたという。しかも、事情を話した機長(実は、民間機はある個人が経営していた航空会社であり、通常では考えられない自由が利いたようだ)のはからいで、島の上空を低空で何度か旋回しつつ通過したのだという。
等々、の興味深いエピソードが散りばめられている。題名作以外にも多数の戦争関連短編が収められているので、そういった方面に関心のある方は読んで損は無いだろう。