【レビューNo.1460】戦闘機と空中戦(ドッグファイト)の100年史
評価★★★★
少し前のことだが92歳のご老人の方とお会いする機会があった。お話をしてみると「特攻隊の生き残り」だと仰る。聞けば、当時の国体では中学生(旧制中学と思われるが)でグライダー競技があったそうで、この方はいわゆる航空少年から戦闘機乗りとなって最後は特攻隊として空に散るはずだったのが、戦況の悪化によりついには自分の搭乗機が供給されず終戦になったのだと言う。その方が生き生きと語る空の世界の話を聞いていて、この世界のことを知りたくなったところ作家の(という表現でいいのだろうか?)板谷敏彦氏にこの本の存在を教わった。
手に取ってみると432ページもあるので、百科事典の様に分厚く読みきれるかと心配しながら開けてみたのだが、著者の図解を多用した解説もあって非常にわかりやすい。特に、評者にとって未知の部分が多かった初期から第一次世界大戦の頃の空戦の様が凄まじい。米軍航空隊は第一次世界大戦中の月間戦闘員損耗率が100%(1ヶ月継戦すると部隊全員が戦死の意)に達していたという。また第二次大戦においては、日独共に著者の言うところの「共有状況認識」の欠落によって、空の優位を失ったのは明白だ(双方共に、人材含め改善の可能性もあっただけに惜しい)。本書は、ライト兄弟の初飛行から最新のF35ないし無人機に至るまでほぼ全ての歴史上の戦闘機を網羅しているが、この「共有状況認識」の意識こそが空戦において決定的に重要であることは全編を読んでみれば明らかだろう。ミサイルやITなどのテクノロジーも全てこのためである。そのトレンドに反して、単機での格闘戦にこだわった零戦の敗北は、野村監督風に言えば「負けに不思議の負け無し」ということではないだろうか。
著者は終章で将来の無人機の圧倒的なパワーにより安易な戦闘の発生を警告している。そして「戦闘機の最も賢い使い方は、爆弾で何かを破壊することでも、ドッグファイトに打ち勝つことでもない。ただの一度も実戦の機会なく、平和のための「抑止力」としての機能を務め果たし、全機を無事に退役させることである。」と書く。その通りであろう。