サラリーマンの無税生活は可能ですか?
Q サラリーマンでも無税生活ができるという話を聞いたことがありますが、本当ですか?
サラリーマンは制度上、不公平な税・社会保障費から逃れられないという話を書いた後で、「無税生活」論があることを思い出しました。これは、只野範男(タダノリ)氏が『「無税」入門』(飛鳥新社)で提唱した、サラリーマンのための租税回避スキームです。
ちなみに『「無税」入門』の惹句には、「橘玲、野口悠紀雄、森永卓郎各氏の「節税術」をメッタ斬り。」とあり、私も、高名なお二人とともに名前を挙げていただく栄誉に浴しています。
只野氏はこの本で、私や野口氏が提案するサラリーマン法人化が難しすぎてなんの役に立たないと批判しています。節税スキーム自体の有効性はともかくとして、それがまったく普及していないのは事実ですから、氏の批判に根拠があることは認めざるを得ません(「自由」は、望んでもいないあなたのところにやってくる)。
それに対して只野氏は、給与所得を事業所得の損失で相殺すればもっと簡単に所得税をゼロにできるし、実際、この方法で37年間、無税でサラリーマン生活を送ってきたと述べます。本当に、こんなことが可能なのでしょうか?
結論から先にいうと、只野氏には可能だったが、只野氏が本を書いたことで現在は不可能になった、ということになります。
その理由を説明する前に、所得税の計算方法について簡単に述べておきます。
所得税は、給与所得、不動産所得、事業所得、雑所得などのサブカテゴリーに分かれており、1月1日から12月31日までに得た各カテゴリーの所得(と損失)を合算し、その年の所得税額を計算します。ところが税法上、他のカテゴリーと損益を通算することができるものと、できないものがあり、話がややこしくなります。
たとえば不動産所得や事業所得は他のカテゴリーと損益通算可能ですが、雑所得は他のカテゴリーから独立しており、損失を給与所得と相殺することはできません。
この仕組みを利用したのがサラリーマン大家さんの節税術で、賃貸用マンションやアパートから得る賃料収入が不動産所得になる一方で、経費や建物の減価償却が損金になるので、物件取得後の数年間は不動産所得をマイナスにすることができます。この損失を給与所得と相殺することで、サラリーマンであっても、合法的に所得税や住民税の還付を受けることができます。
ところがこの方法では、空室リスク(賃料が入らない)や市場リスク(不動産価格が値下がりする)で、節税のつもりが大損してしまった、ということになりかねません。そこで『「無税」入門』では、事業所得で意図的に損失を計上することで、無リスクで税金を払わない方法が提案されます。
具体的には、只野氏は趣味でイラストを描いており、税務署に開業届を出すことでこの趣味を”事業化”し、収入よりも経費が多い状態にして、損失を給与所得と相殺していました。この単純な方法で、只野氏は37年間で約900万円、年間約24万円の節税をしたのだといいます。
このことからわかるように、「無税生活」が実現するかどうかのポイントは、損失しか生まない経済行為(というか趣味)が”事業”と認められるかどうかにあります。これが雑所得と見なされれば、給与所得とは損益通算できず、なんの節税にもならないからです。
そこで次に、事業所得の税法上の定義を見てみましょう。
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