金融機関規制とギリシャ危機、そしてダウの原因不明の急落が示唆すること

紺ガエルさんのブログが更新されたので、ご紹介しておこう。
(以下全文引用)

金融機関規制とギリシャ危機、そしてダウの原因不明の急落が示唆すること: "4月の終わりにNYに行ったときのことだが。
アタマでは分かっていたつもりだったが、予想以上だったのは金融機関に対する世間の風当たりの強さ。

ちょうど某社社員の議会証言をやっていたのだが。
NYTimesなどの一般紙の一面トップ写真入りで、議会証言が取り上げられていたり。
テレビのニュースでも、金融専門のチャンネルでなくても大々的に取り上げられていたり。
(もちろんトレーディングルームではずっと生中継が流されていた)

メディアでの取り上げられ方、その量は、日本での想像を遙かに超えていた。

何でそんなに世論の動向が気になったかというと。
ボルカールールが実際にアメリカで法制化されるかされないか、という点で当然ながら世論の動向は重要だから。

念のためボルカールールが法制化されると。

金融機関の自己勘定取引。
金融機関によるヘッジファンドへの投資やプライムブローカレッジなどのサービスの提供。
金融機関によるプライベートエクイティファンドへの投資。
「Too big to fail(大きすぎて潰せない)」の金融機関を作り出すことにつながる合従連衡。

などが禁止される。

これらの業務は(リスクリターンが見合っていたかはともかく)投資銀行の大きな収益源の一つだったわけなので。
ボルカールールが投資銀行の経営に与えるインパクトというのは極めて大きいわけだ。

発表当初から、あまりのドラスティックな内容だったので最終的には骨抜きになるのでは、という「希望的(?)」観測もあったのだが。

上院では既に、金融機関の破綻に際して公的資金での救済を禁じる法案の修正が96対1の圧倒的多数で可決されている。

したがって。
このルールは、ほとんど当初発表案のまま、あるいは僅かの修正のみでで法制化される可能性が高い。
(今週後半にも上院を通過するはず)
そして来月末には、大統領が署名して施行される。

つまり、大規模な金融コングロマリットのゲームのルールは、近い将来大きく変わるということ。
「影の銀行システム」を経由した信用創造が不可能になるわけだ。

要するに、強烈な信用収縮を発生させる可能性があるという訳で。

加えて、巨大金融機関に対する「暗黙の」政府のサポートが明示的に否定されるということになると。
格付会社は、それぞれの金融機関の格付を2-3ノッチ格下げする、としている。

ちなみに日本の銀行の格付は政府のサポートがあることを前提としてダブルA格。
ただし本来の銀行単体の格付は銀行財務格付で表されていて、海外の銀行と比べて相当低い。

これの裏返しで、政府のサポートが米国の金融機関に対して完全になくなるとすると、2-3ノッチの格下げはやむなしか。

先週、シティは決算発表資料の中で。
現在のA+からAフラットに1ノッチ格下げになると。
追加担保拠出のため、144億ドルの資金調達が必要になる、と述べた。
たかが1ノッチで、13兆円の追加資金調達、ですから。

仮にBBB格に格下げになったりすると。
いわゆるリアルマネー(西海岸のファンドとかですが)と結んでいるスワップ契約では、巨額の担保提供が要求され、すさまじい額の資金調達が必要となる可能性が高い。

それも、複数の金融機関が同時に格下げになるわけだから。
再び資金繰りの懸念が出ないとも限らない。
人に金貸してる場合じゃなくて、自分の資金繰りに必死になるわけなので。

これも、信用収縮の要因。

過去2年ぐらいの金融財政政策は。
市場に大量の流動性、特に米国外市場でドル資金を供給し。
また、金融機関に直接資本を注入したり。

金融機関の保有する資産の価値が不透明になって市場から疑念を招き、資本調達できなくなる事態を防ぐために中央銀行が証券化商品を買い取ったり。
政府が証券化商品への民間の投資に低利で融資を付けたり。

金融セクターで起こった信用収縮、というかデレバレッジの実体経済への影響を減らすために。
政府がレバレッジを上げて、巨額の財政出動を行ったりして。

これらの政策の目的は。

市場の流動性の枯渇を防ぎ、資産価格の乱高下を防ぐことによって金融市場を安定化させ、金融機関の破綻を防ぐということと。

民間部門でのバブルの破裂による過剰な信用収縮・デレバレッジが、世界中の実体経済を深刻なデフレに陥れないように財政出動するということで。

そのために過去2年間、G20はピッツバーグサミットの精神で協調してきたのだが。

過去2週間の市場の動きは、これまでの各国当局の努力をあざ笑うかのようなもので。
あるいは、各国の金融・財政当局は、市場の力の強さを思い知らされて。
当局の力では制御できない市場の力に、恐怖すら抱いたかもしれない。

これだけ市場に流動性を注入し、金融システムの安定化のために大変な努力を払ったのに。
ダウが突然1000ポイントも下落。
それも何の明確な理由もなく。
現在でも理由は明確に分かっておらず。

1987年のブラックマンデーの際のポートフォリオインシュアランスによる機械的な売りが、売りの連鎖を呼ぶという事態と同様の事態が起きたのかもしれず。

信用市場で起きた売りが売りを呼ぶ連鎖を、二度と引き起こさないために。
市場のボラティリティを抑えるための様々な施策をとってきたはずの当局は。
著しい無力感に苛まれたに違いない。

そして、民間債務を公的債務に実質的に変換して、「時間を買った」つもりでいたのに。
ギリシャでソブリンリスクがクローズアップされ。
放漫な財政政策に対する市場の目が厳しくなり、ユーロ圏以外でも多くの国で緊縮政策がとられると。
世界的な信用収縮・デレバレッジの圧力が再び高まる。

それも、狭い時間軸の中で、同時発生的に。
って、1年半前に起こったこととよく似ているのですが。

金融機関規制による、影の銀行システムにおけるもう一段の信用収縮の可能性。
ギリシャ危機に端を発するユーロ圏やその他の国での緊縮財政によるデフレ圧力。
当局の数々の施策で安定したかに見られた金融市場が、実は薄氷の上を歩いていたかのような脆弱なものでしかなかったという事実が世界最大の市場の一つで実証的に明らかになったこと。
資本主義と民主主義という2つのシステムの共存が、自明ではなくなってきていること。

これらのことに、個人的に極めて強い恐怖感を覚えています。




"

このブログの人気の投稿

【レビュー№1258】これから3年 不動産とどう付き合うか

野口悠紀雄氏:インフレ目標2%は達成不可能

(2020/11/8更新)推薦図書10冊