【レビュー№1783】八月十五日に吹く風
評価★★★★★
前から申し上げている様に、評者が愛してやまない戦争映画として東宝の「太平洋奇跡の作戦キスカ」があるのだが、まさかこの時代に「キスカ島撤収作戦」が歴史小説として描かれるとは!数ヶ月前にひょんなことから本書の存在を知った時は大きな驚きを感じたが、読んだ後のいまはただただ作者に対して感謝の言葉しか無い。最後の数章あたりは号泣しながら読んでいたことを、告白しておこう。
評者は全く知らなかったのだが、作者は累計販売部数1000万部を超える売れっ子作家だそうで、既に綾瀬はるか主演による映画化、北川景子主演によるドラマ化がなされた作品もあるそうだ。
そんな作者が歴史小説を書き始めたのはごく最近のことの様で、この作品の前には義和団事件を描いた「黄砂の篭城」という作品があるそうだが、事実上2作目の歴史小説のテーマになぜあまり一般には知られてない「キスカ島撤収作戦」を選んだのかは大いなる謎だ。が、評者と歳格好の変わらない作者のことだから、子供の頃にテレビの洋画劇場で放映されていた映画「太平洋奇跡の作戦キスカ」を見て、いつかはあれを小説にしたいと密かに思い描いていたのでは無いのだろうか?そうとしか思えないほど、本作は登場する膨大な数に登るそれぞれの人物の心の内面に至るまでの描かれ方が深く、作者のこの作品にかける気迫とでもいう「風」を読んでいて感じるのだ。
ネタバレを避けるため、作品内容には細かくは言及しないが、米軍側の思わぬ「大物文化人」の本作戦への関与、映画では描かれなかった軽巡洋艦阿武隈に乗艦した「従軍記者」が実はキーマン(おそらくは本作執筆にかかる、新たな情報提供者なのだろう)であること、悲惨なアッツ玉砕の描写等々、上げればキリがないが、各章ごとの場面転換も絶妙であたかも映画かテレビドラマを見ているような錯覚に陥り、読者を飽きさせることがない。
本作に描かれていることが事実だとすれば「戦後」に関わるある「重大な決定」のきっかけが、実は「キスカ島撤収作戦」だと言うことになる。ぜひ歴史家の方にも検証頂きたいところだ。