【レビューNo.1640】ストラディヴァリウスの真実と嘘
おそらくは日本で唯一のバイオリンドクターと思われる著者の生涯を賭した集大成の一作と高く評価したい。
奥方にしてバイオリニストの中澤きみ子によるストラディバリウス模範演奏のCDが付録で付いているこだわりようだ。その付録CDの演奏では、ロマノフ、ダ・ヴィンチ、ハンマー、ヴィオッティの4種類のストラディバリウスによる録音が収められている、、、、、、私の様な素人だとそもそもストラディバリウスに何種類もあるのか?というレベルなので実に難解な書だ(評者も一応クラシック音楽のマニアの端くれではあるのだが)。
ストラディヴァリウスの他とは別次元の音を奏でる楽器としての魔力、製作者であるストラディバリ本人の歴史とその秘密、楽器となったそれぞれのストラディヴァリウスの数奇な運命、ストラディバリウスを演奏する巨匠たちの素顔、著者の生い立ち、バイオリン工房を立ち上げて幾多のドラマチックな出来事を経ながら音楽家への貢献を目指す日々、などなどクラシック音楽に関心ある方にとっては読んで損はない話ばかりだ。
著者はバイオリン作成歴が60年を超えると言い、なんと初めて作った時はまだ8歳だったそうだ。そう聞くとさぞかし金持ちのお坊ちゃまだったのだろうかと思うが、事実はその逆で父親が借金の保証人となり無一文となって、あたかも「大草原の小さな家」を想起させるような極貧の水車小屋生活(その小屋もお父上が自作したのだという、元々木工職人だったそうだ)の中にあって、始めたというのだから驚きだ。中学や高校の夏休みの宿題ごとに新しいバイオリンを作って提出していたという。そして19歳にしてなんのつてもなく渡欧して、現在に至るまで日欧を往復する日々が続くという。どこか、若い頃の小澤征爾氏を彷彿とさせる。
かのアルバン・ベルク四重奏団なども氏が楽器の調整をしていたというほどのマイスター。著者の志がこれからも確かに継承されることを祈念すると共に、陰ながら応援したい。