【レビューNo.1574】幸福の「資本」論
評価★★★
例によって橘玲氏ワールドの書。
私の様に初期からの著者の読者にとって、著者の言動はある種宗教みたいなものになっているので、本来的には本書を私がレビューするのはもはや適切では無いのかも知れない。
そう思いつつも書くが、何時もながら著者の発想には感心させられる。今回は人を金融資本(要は貯金)、人的資本(要は給料をいくら稼げるか)、社会資本(友達の多さなど)の3つの側面からとらえようというトライアルな訳だが、この区分けで行くと、いわゆるマイルドヤンキーの人たちがお金(金融資本)が乏しくても、友達という社会資本と最低限かも知れないが生活には困らない程度には稼ぐことができる人的資本によって、幸せであると著者は本書で説く。
逆に、お金持ち(金融資本が豊富)であっても、人的資本が無く(働くことをやめたないし老齢より働くことができない)、社会資本も乏しい(お金持ちはそれが故に友達は少なくなるであろうとの著者の見立て)と容易に不幸になると言う。確かにそういう人は、評者の周りに多く存在している。
著者の過去の著書に比べると、お金(金融資本)について言及しているところが極めて少ないのが、本書の特徴だろう。その理由として著者は「マイナス金利によって、金融資本を増やすことが極めて困難になり、逆に給料など定期的な収入のあること(人的資本)が極めて重要な世の中に変わったのだ。」と説く。
わかりやすく書けば、マイナス金利の時代では、年収3百万円の若者の人的資本価値は、著者の見立てだと約3億円に達すると言うのだ。
年金問題とて、元は長すぎる老後問題なので、少額であっても定期的な収入を得る人的資本をキープすることが極めて重要だと言う。
という、普通の人には理解しづらい理屈の書だが、読んでおいて損は無いとだけは言っておこう。