使える経済書100冊:『資本論』から『ブラック・スワン』まで
池田信夫氏の次著がアナウンスされた。いい読書ガイドになることだろう。
(以下、氏のブログ記事全文引用)
今年は「電子出版元年」といわれ、アマゾンのキンドルに続いてアップルのiPadが発表された。日本でもこれから電子書籍が普及し、本を端末で読むことができるようになろう。しかしインターネット時代になっても、本に代表されるまとまった知識の重要性は変わらない。ビジネスマンは時間がないので、時事的なフローの情報は仕入れるが、系統的なストックの情報を勉強する余裕がない。
先日は国会審議で、菅直人財務相など3人の閣僚が誰も「乗数効果」の意味を知らないのを見て唖然とした。乗数効果というのは、高校の「現代社会」にも出ているマクロ経済学のきわめて初歩的な概念である。彼らは経済学なんか知らなくても、勘と経験で経済運営ぐらいできると思っているのだろう。
世の中で売れている本にも「国債はいくら発行しても大丈夫」とか「お札を無限に印刷すればデフレは止まる」といった荒唐無稽な話が多いが、こういう本の著者も、経済学の初歩的なロジックさえ知らないことが多い。本書はこうした誤解を解き、日本経済の問題をビジネスマンが考える素材となる本をリストアップしたものだ。
私は10年以上「週刊ダイヤモンド」で書評を担当しており、ブログでも本を取り上げてきた。書評でいちばん大変なのは、本を選ぶ作業だ。書評の原稿というのは原稿用紙2~3枚程度なので、本を読めば2時間もあれば書ける。だから雑誌などから本を指定された場合は楽だが、自分で選ぶ場合は大変だ。1ページの書評は「私がこの本を推薦する」と受け取られるので、ぎりぎりまで都内の本屋を探し回ることもある。担当は1ヶ月半に1冊ぐらいなのだが、そのペースでも絶対の自信をもって勧められる本は少ない。
それでも無理やり選んでいるうちに、他の雑誌も含めて10年で100冊近い本を書評した。ブログで書いた書評を合わせると、600冊近い本を書評したことになる。編集者には「書評のプロ」などとおだてられるが、あまりうれしくない。ただ、これだけあると経済学や情報産業についての一種のデータベースになっているような気もするので、整理して情報を補足し、ビジネスマンの読書ガイドにしようというのが本書の目的である。
といっても、本書はすべての人に通用する「万能の読書術」を伝授しようというものではない。読書には、大きくわけて2種類ある。一つは小説など「消費」として読む本で、これは読書そのものが目的なので、ゆっくり時間をかけて楽しむのがいいだろう。もう一つは、ビジネスマンが「投資」として読む本で、これはなるべく効率よく、最小の時間で最大の効果をあげることが求められる。本書が対象とするのは、後者だけである。
また、すべての人に最適の読書術や勉強法というのは存在しない。読書法は何を目的にするかによって違い、読者の年齢や知識水準によっても変わる。学生の場合には何のために読むかがはっきりしない一方、読書する時間はたっぷりあるので、基礎から勉強したほうがいいが、ビジネスマンの場合には仕事で必要な知識が明確で読書にさける時間は限られているので、時間を節約して必要な知識だけを得る工夫が必要だ。
世の中には「10倍速く読める速読術」とか「年3000冊読める読書法」などという本がたくさん出ているが、そういうハウツー本に効果があるかどうかは、著者の実績を見ればわかる。3000冊読む著者が無名のフリーライターでは、読書が役に立ったとは思えない。読書は知識を身につける手段であって、たくさん読むことが目的ではない。10倍速く読んでも3000冊読んでも、その内容が身についていなければ何の価値もないのだ。
私は仕事で年300冊ぐらい本を読むが、すべての本を最初から最後まで読むわけではない。同じ1冊でも、お手軽なハウツー本は電車の中で30分あれば読めてしまうが、専門書はちゃんと読むと1年かかることもある。大事なのは、何のために読むのかという目的を明確にして必要な部分だけ読むことだ。
さらに重要なことは、何を理解したかということだ。単なる知識を得るだけなら、検索エンジンでも用は足りる。知識を体系化するには、本で体系的に勉強する必要がある。ビジネスマンは自分の仕事に関係する情報は収集するが、学問的な知識は意識的に努力しないと身につかない。そういう理論は、経験的にわかると思っている人も多いが、経済学に関しては経験で身につけることはできない。
海外の書評は長く、ダイジェストの役割も果たすことが多いが、日本の書評は短く、ほめる書評ばかりで客観的な評価が少ない。本書の書評は1冊当たり1000字以上あるので、読むに値するかどうか読者が判断する材料になり、読まないで内容を知るためのダイジェストにもなろう。ただし大部分は主観的な感想なので、バランスの取れた紹介とはいえない。
本書は、これまで書評した本の中から、世界経済や日本経済を考える参考になる本を100冊選んだものだ。あくまでも私の個人的ブックガイドであり、必読書を網羅したものではないが、アマゾンの評価でいえば星四つ以上なので、買って損はないと思う。すべての人に役立つとは思わないが、何冊かはビジネスマンの参考になるだろう。なるべくビジネスマンの読める一般書に限定したが、やや専門的な本には*をつけた。ただ大事なのは本を読むことではなく、あなたが自分の頭で考えることである。
世界経済は大きく変わったのに、日本経済は変化を拒否したまま20年以上過ごしてきたが、おそらく本質的な変化はこれから起こるだろう。日本航空でさえ破綻する時代に、あなたの勤務している会社が定年まで存在する保証はどこにもない。いくら会社に忠誠を尽くしても、「企業特殊的技能」は会社がなくなったら何の価値もない。最後に頼れるのは、自分の専門知識だけである。本書が、これからやってくる大変化の時代を乗り切るささやかな指針となれば幸いである。
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