ボルカー・ルール 銀行規制改革案の長期的影響(最悪ケースの事前スタディ)
春山さんの記事。長文ですが、これは読んでおいた方が言いと思う。
(以下全文引用)
現在のコンセンサスは、「医療保険改革と同様に骨向き」という楽観と「何がどうなるかわからない」という無反応に分かれている。現状では、振り上げた拳の3割(?)適度が実施されるという認識が多いようだ
< 私の結論 >
No More Bail-Out : 民主主義からの要求、政治的な圧力、長期的な圧力であり、一過性ではない。
実施された際の影響は、企業レベル、金融機関レベル、国家レベル、市場レベル、の全てに及ぶ
単純化すれば、金融機関規制は、
市場を駆け巡る投機資金の縮小=>市場全体の流動性低下=>信用スプレッドのワイド化=>世界の信用乗数の低下=>世界経済の潜在成長力の低下
、、、という地球規模のデフレ・リスクを内包している。
2010年代を通じての最重要観察項目だ。
金融機関規制の初期においては限界調達企業&ファンドの資金調達難懸念が発生してCredit SpreadのWide化と金利上昇が起こるが、これは悪い金利上昇だ。
その後の景気実態に修練する形で金利が低下して元の金利レベルにもどったとしても、既にその時には潜在成長率がダメージを受けて低下してしまっている。そうなった後は、長期間にわたり見かけは低い名目金利でも、現実には「潜在成長率を上回る高い実質金利」となってしまう。
現在の日本がそれだが、世界に先駆けてこれから海外で起こるリスク・ケースが顕在化したと言えよう。
大騒ぎする影響が2010年に発生するとは思わないが、本格採用された場合に発生する大きなトレンドと反対のポジションにならないように準備したい。
< 銀行の受ける影響 >
額面どおりに、ヘッジ・ファンドとPrivate Equityへの投資を禁止され、デリバティブ・エクスポージャー、Off-B/SとProp Tradingが縮小させられるとすれば、EPSレベルでの利益が減少、利益率の高いビジネスが減少するのでROEが低下する。Off-B/Sが無くなれば営業利益のレバレッジが消える。
デリバティブの縮小はローン・ポジションのヘッジを不可能にし、証券化率も低下する。
ノーヘッジで保有を継続するローンが増加するので、貸し出し態度が保守的になる。限界的にローンを受けている企業に対するリスク・プレミアムが大幅に上昇するか、ミニ・クラウディング・アウトを引き起こすリスクを感じてcredit spreadはwide化してしまい、貸せる企業のパイが急速に縮小する。
ヘッジ・ファンドとPrivate Equityへの投資の禁止は、間接的な株式ポジションの消滅を意味するので、銀行のB/Sで金利exposureが急増する。
< 企業の受ける影響 >
中小企業や新興企業に対するリスク・プレミアムが上昇する。企業セクター全体では明らかにコスト・アップになり、wide化したcredit spreadが常態化するので高コストが定着する。これは徐々に倒産確率を上昇させる。
大企業は当初は銀行の安全へのシフトで借り入れが簡単になるが、多くの関連企業は中小企業であるため、売掛金の回収などを含めたビジネス・リスクが上昇して管理コストが増す。中小企業の利益率の低下は食物連鎖的に大企業の利益率にも悪影響が及ぶ。
企業セクターの中でも借入金依存度の高い企業ほど悪影響を受ける。
< 長期金利への影響 >
金融機関規制の影響は、(1)利用できる資金の減少により資金の奪い合いが発生し金利が上昇する。(2)その後、経済の乗数効果の低下により潜在成長力が低下する悪影響により金利は長期間にわたって低下する。
< 証券市場への影響 >
ヘッジ・ファンド、Private Equityへの投資禁止が提案されているが、高リスク・エリアほど流動性が枯渇する。
L&S positionやcarry positionの縮小は、アービトラージの縮小を意味するので、周辺部分の市場や投資対象に不適正な価格差が温存されるが、基本的にはリスクを避ける動きが一巡するまでは、割安はさらに割安に、割高はさらに割高になる。
新興企業、IPO、小型株はvaluationが低下する。中小企業向け融資、消費者金融、小型株、新興国、ベンチャーなどに関する商品は要注意だろう。
ヘッジ・ファンドは銀行のローンをヘッジする相手側の役割を果してきたが、それが縮小するのでCDSは流動性が低下し、volatilityが上昇する。
< 国レベルへの影響 >
各国政府は国債発行が急増しているが、銀行のリスク許容度の低下は低格付け国のリスク・プレミアムを過去以上に引き上げることになり、金利以上の金利を払っても過去以下の債券しか発行されない事態も発生する。低格付け国間では、流動性の争奪戦がおこる。
黒字国に頭を下げる事態が頻発し、国内世論が硬化するので、利払いが危うくなった際は国内世論が黒字国(=アジア=中国、日本)を悪者にする可能性が高まる。
< あるべき規制の方向と現実の動き >
「No More Bail-Out」と、「個人の預金をハイリスク投資への流用禁止」は別エリアの議論。
前者は国内事情が強く反映し、後者は国際的な総論としては共同歩調が得られやすいが、国家間で利害が相違するので欧米の意見が割れるだろう。
金融機関規制は(1)ビジネス・カテゴリー分割方式(根本的変更:下記のような分離方式)と(2)リスク・テイク低減方式(預金のリスク資産への投資維持しつつ、リスク・レベルを下げる)がある。
前者はスッキリするが、アメリカの現行企業形態&規制体制では下記のような綺麗な分類(昔の状態)に戻すことは時間的にも政治的にも不可能。
今回は中間選挙をにらんだアドバルーンという色彩も強いためバンド・エイド的な応急措置の議論に終始する。しかしこれは民主党政権が続く限り終わらない議論になる。
ボルカー案の根本は、(1)庶民の預金を集める商業銀行、(2)Own Capiralで果敢にRisk Takeする投資銀行、(3)証券の売り手と買い手を仲介するFeeを頂戴するブローカー、(4)庶民の金をRisk Takeに引き込んでFeeを頂戴する投資顧問、、、こういう分離案だった。背景は(1)商業銀行と、(2)投資銀行を分離して、情報劣位にある庶民を破綻させないという暗黙の了解、モラルを回復させること。1980年代以降に起こった金融の自由化&垣根消滅が、徐々に業界のモラルを破壊した。同時に庶民も強欲になった。となりの「私より賢くないあの人が儲けている・・・・」というヤッカミがモラル破壊に反対する声を殺した。
この大きな振り子が反転しつつあるとすれば相当長期間の動きだと覚悟すべきだろう。
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