【池田信夫氏本年ベスト経済書】比較歴史制度分析

これは読まないといかんのでしょうな。ちとお値段が高い。
(以下引用)

比較歴史制度分析

比較歴史制度分析 (叢書〈制度を考える〉)「今年のベスト経済書」の類のアンケートは終わってしまったが、残念。本書は文句なしに今年のベストワンだ。原著が出たのは2006年だが、今やこの分野の古典といってもよい。訳者の組み合わせを奇妙に感じる人がいるだろうが、中身は経済史をゲーム理論で説明するもの。テーマは中世の地中海貿易というマニアックな話だが、その内容はいま日本の直面している問題を考える上でも示唆に富む。

本書のロジックは、ある意味では単純だ。中世の遠距離貿易で成功したマグレブ商人の評判メカニズムを、フォーク定理で説明する。彼らはユダヤ人で、互いの裏切りに関する情報を濃密に共有し、メンバーの1人を裏切った商人は、地中海の全域から閉め出された。このような「村八分」型のメカニズムは、商圏が地中海に限られているときはうまく機能したが、貿易が欧州の内陸部まで広がると、評判メカニズムが機能しなくなる。

マグレブ商人に代わって欧州の貿易の中心となったジェノア商人は、評判メカニズムによって裏切りを未然に防止するのではなく、契約によって取引を行ない、契約違反があった場合は事後的に処罰した。こうしたシステムは「法の商人」(Law Merchant)として制度化され、商人ギルドの核となった。ただ、これもフォーク定理の応用として説明でき、近代以前のガバナンスは基本的に長期的関係によるものだった。

本書では、こうした繰り返しゲーム的なメカニズムが近代の法的メカニズムに移行する過程も分析している。両者は複数均衡になっていて、一つの均衡から他方に移行する道はさまざまなものがありうるが、その一つは都市間競争による淘汰である。ネットワークが広がるにつれて長期的関係に依存する安心ネットワークが敗れ、法の支配による信頼ネットワークの機能する都市が生き残る。

これはグローバル化によって日本企業の長期的関係が機能しなくなり、ドライな水平分業が広がるのと似ている。このような変化は近世の欧州で始まり、世界に広がったものであり、今に始まったことではない。それを「グローバリズム」とか「市場原理主義」などと呼んで排斥する国は、競争によって淘汰されるのである。

追記:VCASIのサイトに、訳者によるくわしい解説が出ている。

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