幻冬舎のMBOにケイマン諸島のファンドが「横ヤリ」

もしかするとイソログ先生の記事を紹介するのは初めてかな。
どこか、ホリエモンの暁の急襲(ニッポン放送株時間外取引大量取得)を思い出す事例だ。
(以下全文引用)

幻冬舎のMBOにケイマン諸島のファンドが「横ヤリ」: "

(追記あり:14:44)


起業のファイナンス」の担当をしていただいた日本実業出版社の編集者の横田(@editoryokota)さんが、



30%を超えるまでよくニュースにならなかったなー。RT @fladdict: なにか起こりつつある。「ケイマン諸島のファンド幻冬舎の株30.6%を取得」http://bit.ly/feFmaS



とツイッターでツイートされてたので、取り急ぎ豆知識&私自身の頭の整理用エントリです。


 



 


金融商品取引法上、5%を超える上場株式等を取得した者は5日以内に「大量保有報告書」を提出しなければなりませんが、


 



(大量保有報告書の提出)

第二十七条の二十三  株券、新株予約権付社債券その他の政令で定める有価証券(以下この項において「株券関連有価証券」という。)で金融商品取引所に上場されているもの…の保有者で当該株券等に係るその株券等保有割合が百分の五を超えるもの(以下この章において「大量保有者」という。)は、内閣府令で定めるところにより、株券等保有割合に関する事項、取得資金に関する事項、保有の目的その他の内閣府令で定める事項を記載した報告書(以下「大量保有報告書」という。)を大量保有者となつた日から五日(日曜日その他政令で定める休日の日数は、算入しない。…)以内に、内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、…



 


証券会社などは、大量に取引をするので、この要件が緩和されてまして、


 



(特例対象株券等の大量保有者による報告の特例)

第二十七条の二十六  金融商品取引業者…銀行その他の内閣府令で定める者…が保有する株券等で…「重要提案行為等」…を行うことを保有の目的としないもの…が保有する株券等(以下この条において「特例対象株券等」という。)に係る大量保有報告書は…株券等保有割合が初めて百分の五を超えることとなつた基準日における当該株券等の保有状況に関する事項で内閣府令で定めるものを記載したものを、内閣府令で定めるところにより、当該基準日から五日以内に、内閣総理大臣に提出しなければならない。

(中略)

3  前二項の基準日とは、政令で定めるところにより毎月二回以上設けられる日の組合せのうちから特例対象株券等の保有者が内閣府令で定めるところにより内閣総理大臣に届出をした日をいう。



 


と、月2回基準日を設けて、そこから5日以内でいいですよ、ということになってます。


 


この月2回というのもテキトーではよくなくて、「株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令」の第14条の8の2の第2項で、


 



2  法第二十七条の二十六第三項 に規定する政令で定めるところにより毎月二回以上設けられる日の組合せは、次のいずれかとする。

一  各月の第二月曜日及び第四月曜日(第五月曜日がある場合にあつては、第二月曜日、第四月曜日及び第五月曜日とする。)

二  各月の十五日及び末日(これらの日が土曜日に当たるときはその前日とし、これらの日が日曜日に当たるときはその前々日とする。)



 


と、月曜日締めか、15日・末日締めかのどちらかにせよと、定められています。


 


今回大量保有報告書を提出した「イザベル・リミテッド」をEDINET(下の方の「有価証券報告書等」ボタンを押して「発行者検索」で「幻冬舎」を入力するのが早いと思います)で調べると、ケイマンにある法人で事業内容「投資顧問業」とあります。


 


ちなみに、設立年月日は平成22年11月12日とありますので、幻冬舎がMBOするプレスリリース



2010年10月29日

MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ



を見た後に、幻冬舎の株式を買うために設立を決めた法人ではないかと思われます。


 


昨日(12月7日)に提出された大量保有報告書を見ると、6日までの取得状況は以下のとおり。


 


201012081125.jpg


 


これを見ると、11月26日金曜日までの3日間までは4.38%でしたが、29日にドーンと買って7.93%になってます。


そして、報告日の前日の12月6日にまた9.45%も買い増しているわけですね。


 


前掲の条文でreferされている政令の「株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令」の11条を見ると、



(特例対象株券等の保有者である金融商品取引業者等の者)

第十一条  法第二十七条の二十六第一項に規定する金融商品取引業者、銀行その他の内閣府令で定める者は、次に掲げる者とする。

一 金融商品取引業者…銀行、信託会社…保険会社、農林中央金庫及び株式会社商工組合中央金庫

二 外国の法令に準拠して外国において、第一種金融商品取引業、投資運用業、銀行業、信託業又は保険事業を営む者であって前号に掲げる者以外の者



とあるので、外国の投資顧問業でも、前述の特例は認められています。


ケイマンで投資顧問業というのになるのがどのくらい大変かはよく存じませんが、投資用のvehicleがたくさん集まるお国柄からして、日本で投資顧問業になるのよりは、はるかにカンタン(もしかすると、普通の法人設立となんら変わらない)ということかも知れません。


つまり(ケイマンに法人を設立さえすれば)「誰でも」この特例が認められるということになっちゃうのかも知れません。

(最近、海外にファンドが脱出する原因の一つになっているかも知れませんね。)


 


この大量保有報告書を見ると、報告義務発生日が「平成22年11月29日」となっていますが、それから土日(行政機関の休日)を除いて、6日目に提出しています。

(つまり5日以内には報告していません。)


 


ということは、(このファンドが法令を遵守しているとすると)、やはり一般の法人として提出しているのではなく、投資運用業として基準日を15日と月末に設定していて、月末30日の基準日から5日目に提出したということかと思われます。


 


 


追記(14:44):

読者の方より、

「特例報告は3号様式のはずだが、今回は1号様式で、かつ金融商品取引法第27条の23第1項が根拠条文であげられているので、特例報告ではないんではないか。(単に報告期限をオーバーしただけ?)」

というご教示をいただきました。



株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令

(特例対象株券等に係る大量保有報告書等の記載内容等)

第十五条  法第二十七条の二十六第一項 の規定による大量保有報告書又は同条第二項 (第三号に掲げる場合を除く。)の規定による変更報告書を提出すべき者は、第三号様式により当該報告書四通を作成し、財務局長等に提出しなければならない。



 


様式と根拠条文の方を間違えた、という可能性もあるのかな?と思います。


EDINETを見ると、本日(8日)になって、訂正報告書(根拠条文:法第27条の25第4項←間違い等による訂正)が提出されており、



「提出者のために取引の媒介、取次ぎ又は代理を行う者の名称、所在地及び連絡先を記載した書面」を非縦覧添付文書として提出することを怠ったため、添付いたします。



とあり、「当該株券等に関する担保契約等重要な契約」のところに、



信用取引 立花証券 2,854株



と追記されてます。


大量保有報告書の提出に慣れてらっしゃらないのかな、という想像も成り立つかと思います。


取り急ぎ追記まで。 (追記終わり)


 


 


前掲の幻冬舎のプレスリリースに掲げられたTOBの期間は、平成22年11月1日(月曜日)から平成22年12月14日(火曜日)までの30営業日間とされています。


前述の取得の状況からすれば、イザベル・リミテッドは、29日と30日の2日間だけ我慢して4%台に押さえれば、最大12月15日の基準日から5日以内まで引き延ばせたはずですが、TOBが14日で終わってしまうので、もしこのファンドがTOB期間中に「俺が買ってるぞ」とアピールしたい場合には、言い出すきっかけが無くなっちゃいます。


つまり、あえて 11月末までに5%を超えるようにしたのかも知れません。


 


また、法第27条の26、内閣府令12条「特例対象株券等から除外される場合の株券等保有割合の基準」を見ると、



(特例対象株券等から除外される場合の株券等保有割合の基準)

第十二条  法第二十七条の二十六第一項及び第二項第三号に規定する内閣府令で定める数は、百分の十とする。



とあり、10%を超えると、この「月2回の基準日でいいよ」という特例は使えなくなります


このファンドの場合、11月30日で10.71%となってますので、どっちにしろ、これ以降は1%変動する毎に報告しなければならない義務が発生するわけです。


  


さて、Yahoo!ファイナンスで幻冬舎の株価と出来高を見てみると、以下の通り。


 




201012081210.jpg


 


大量に買った29日(11月26日金曜日の次の目盛り)でも、1,277株ですから、ちょっと多めかな、という感じでさほど目立たなかったかも知れないですね。


そして、株価は12月に入ったあたりからなんとなく上向き出して、2日、3日あたりになると完全にTOB価格(22万円)から乖離してきます。


報告期限の12月7日の前日、 6日月曜日には3,401株をドーン買ってますね。


 


大量保有報告書にある保有目的には、



純投資(但し、投資一任契約等に基づく顧客資産運用のため) 状況に応じて重要提案行為等を行う可能性があります。



とありますが、重要提案行為等は行われるんでしょうか?

(もちろん、行う気なんでしょうね。)


 


ちなみに、「重要提案行為等」というのも金融商品取引法施行令に定義がありまして、



(重要提案行為等)

第十四条の八の二  法第二十七条の二十六第一項 に規定する株券等の発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として政令で定めるものは、発行者又はその子会社に係る次の各号に掲げる事項を、その株主総会若しくは投資主総会又は役員…に対して提案する行為とする。ただし、軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く。

一  重要な財産の処分又は譲受け

二  多額の借財

三  代表取締役の選定又は解職

四  役員の構成の重要な変更(役員の数又は任期に係る重要な変更を含む。)

五  支配人その他の重要な使用人の選任又は解任

六  支店その他の重要な組織の設置、変更又は廃止

七  株式交換、株式移転、会社の分割又は合併

八  事業の全部又は一部の譲渡、譲受け、休止又は廃止

九  配当に関する方針の重要な変更

十  資本金の増加又は減少に関する方針の重要な変更

十一  その発行する有価証券の取引所金融商品市場における上場の廃止又は店頭売買有価証券市場における登録の取消し

十二  その発行する有価証券の取引所金融商品市場への上場又は店頭売買有価証券登録原簿への登録

十三  その他前各号に準ずるものとして内閣府令で定める事項



13号から株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令に飛んで、



(重要提案行為等となるもの)

第十六条  令第十四条の八の二第一項第十三号に規定する内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。

一 資本政策に関する重要な変更(証券取引法施行令第十四条の八の二第一項第十号に掲げるものを除く。)

二 解散(合併による解散を除く。)

三 破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立て



です。


まあ、細かく定めるまでもなく「重要そうなことなんでも」ですね。


(この「重要提案行為等」を行う場合にも、報告を月2回行えばいい特例はなくなります。)


 


---


 


最初の横田さんの疑問に戻って、「なぜニュースにならなかったか」をまとめると、



  • 大量保有報告書の報告期限をうまく活用し、


  • 節目の時以外は、気付かれないように、そこそこの量しか買い付けず、


  • 「どーせバレる」というタイミングで、どばっと買い付けていたから


ということになるかと思います。


 


(取り急ぎご参考まで。ではまた。)

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