アジアの未来(日経新聞主催)におけるシンガポールのLee Kuan Yewの発言

今週目にした記事の中で、最も注目に値するものと判断する。
(以下全文引用)

アジアの未来(日経新聞主催)におけるシンガポールのLee Kuan Yewの発言: "先週参加したアジアの未来(日経新聞主催)におけるシンガポールのLee Kuan Yewの発言をメモしました。
私の英語ヒアリングの範囲内のメモであり、正確性は保証できませんが、こんな内容だったという点では外れていないと思います。

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 中国の発展に関しては、そのスピードには驚くばかりだ。それは彼らが自分たちの後進性を認識したからだ。彼らはキャッチアップするためにさまざまな事を加速度的に学び吸収している「accelerated learning mode」にある。キャッチアップするために「English to access to knowledge and information」と理解しており、中国は猛烈な英語学習熱に覆われている。

かつての覇権国中国は自国内に資源を持ち自給自足の帝国だった。しかし現在の中国は多くの資源を海外に依存する帝国だ。したがって多くの国と友好的な関係を維持する必要があり、北京政府はそれを十分に理解している。

資源は海からやってくる。中国はSea Routの安全確保に最大の配慮をしている。マラッカ海峡は海賊の巣窟だ。マラッカ海峡の封鎖という万が一のことを考えて、中国はマレー半島を横切る原油輸送パイプラインの建設を計画している。そのパイプラインの直径の巨大さを聞いた時には驚いた。

経済成長がもたらす格差の問題が言われるが、、トウ小平は経済成長のスピードを重視した。飛行機が離陸するときのエンジンはフルスロットルでなければ離陸できないのと同様に、巨大な中国経済が第一段階の発展(=離陸)をするには先富論(=先に頑張って豊かになった者を他の者が追いかける)が必要だった。

現政権の胡錦涛と温家宝は農村部で執務した経験があるので、内陸部・農村部と沿海部・都市部との格差の問題の重要性を認識している。格差を縮小(narrow)することはできても、なくす(close)ことは不可能だし、それに拘泥しては良くないとも認識している。

中国はスケールが大きいので格差是正の手法にも驚くことがある。CostとSpeedを考えて「Swap the City」という事もやっている。古くからの街に住民が住んだままでQuality of Lifeを改善させるのは手間暇金がかかりすぎる。近くの広大な土地にゼロから近代的な都市を建設し、近隣の3~4個の古い街や村を新都市に移転させるのだ。
重要な事は、今生きている人に経済発展の果実としての幸福を与えなければならないということだ。だからCostとSpeedが重要なのだ。

日米同盟や沖縄問題で日本が揺れているが、1945年以降のアジアの経済発展はメリカによる平和の維持という基の上でなされたことを忘れてはならない。
北海道からインドネシアに至る長い防衛上のラインをアメリカは維持してきた。少し前にフィリピンのスービック海軍基地(アジア最大のアメリカ海軍基地)が無くなる時に、代替機能のほんの一部になると考えて、シンガポールは空母補修用のドックと乗組員用の施設を建設して提供した。
沖縄の基地はなくせない。グアムは4000キロも離れていて対中国との軍事的なバランスを失ってしまう。

米中関係は「too goodでもなく、too badでもない」つかず離れずの関係を継続するだろう。(筆者注:米中は呉越同舟)お互いを必要としているからだ。

日本の民主党政権が認識すべき事は、第一には「米中の軍事バランスは重要だ」ということだろう。
アジア地域の「Rule of Law」が機能しているのも米中の軍事バランスが均衡しているから成立している。もし(筆者注:鳩山首相がかつて主張していたように)アメリカ軍が日本から撤退して、米中の軍事バランスが崩れたら、「Rule of Law」も失われる。例えばベトナムが沖合の油田を開発するためにアメリカ企業のエクソンと契約をして探鉱を開始したら、中国海軍がやってきて阻止するだろう。
つまり「Rule of Law」は自然に実現するのではなく、それを維持するさまざまな努力の元に成立しているのだ。日米同盟を中心とするアジア地域での米中軍事バランスの維持はその意味で非常に重要だ。要は、「wise to have a broader balance」である。

第二には、日中は対等では無いという現実を認識すべきだ。人口、経済力、軍事力、政治力において日本は中国に劣後していることを認識したうえで行動すべきだ。(筆者注:中国が少し前に自らの後進性を認識して行動を変えたのと同じだ)

鳩山首相が打ち出した東アジア共同体構想だが、アジアの多くの小国は常にバランスを考慮しなければならない立場にあるという点を首相が理解して事を進めてくれればよい。

日本の直面する少子高齢化に関しては、、、これは反転が不可能だと認識すべきだ。シンガポールも同様な状況であり、解決には二つの選択しかないことを随分前に理解した。出生率の上昇か移民受け入れかである。シンガポールでは前者は不可能だと理解した。

シンガポールは小国なので教育が国の発展のために重要だと位置付けている。
女性は重要な人的財産だ。男女平等を教育・職業・権限の全ての分野で実施している。その結果、女性はある時に「夫がいなくても自分のQuality of Lifeを向上させることが可能だ」と認識する。そして、(筆者注:独身が増えたり)子供を1人しか産まなくなる。子供はhigh costなのだ。 

だから移民を受け入れるしかないと悟った。しかし、移民もシンガポールに来てしばらくすると少子化の仲間入りする。彼らも「シンガポールのような社会では、子供はhigh cost」だとすぐに理解するのだ。

わたしは「restructure the society」しかないと思っている。若い人口ピラミッドの時代に合わせたsocietyのあり方を維持するのではなく、現在の社会人口構成に適合するようにsocietyをrestructureするのだ。

日本も二つの選択肢しかないし、出生率回復は不可能と知るべきだろう。移民を拒否すれば長期衰退しかない。
老人社会
は活力が無い社会だ。老人は服を買い替えたり、パーティを開いたり、さまざまな活動がless and lessになる。また現状を変えずに過ごそうと、それが改善であっても変化に抵抗する。 さまざまなサービス活動が縮小するのでサービス業の雇用が維持できなくなり、経済は想像以上に悪化衰退する。デフレ縮小国家になる。

もちろん移民の受け入れはシンガポールに便益をもたらすので、受け入れるシンガポールも来てくれる移民の受け入れ体制の整備に手間暇をかけるべきものだと考えた。民族・宗教・習慣など移民一世はシンガポール人になるのは無理だ。
2世以降は大丈夫だが。移民一世のために手間暇を惜しんではいけない

シンガポールは激動する世界に取り残されないように常に「change me」を心がけている。我々は世界の中では「small Singapore」なのだ。
keep up with change, progress, technologyを心がけている。
以前私はe-mailができなかった。秘書にプリントしてもらって、その用紙にペンで返答を書いて、秘書が返信メールしていたが、二重手間だと認識して、3か月かかったがe-mailが自分でできるようになった。(筆者注:80の手習い)
今はiPadを買ってSNSに挑戦する予定だ。iPhoneは小さすぎてキーが打てないのだ。

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Lee Kuan Yewの話を聞いたあとでは、それまでに聞いた他の要人の話が消し飛んでしまうほどでした。
明快、simple、説得力を持つ発言内容は圧倒的で、体は弱っているが、その頭脳は活力に満ちていると感じた。
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